空手と法律

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空手と法律について

私は、趣味で小学1年から空手をしており、今も父が開いている空手教室の手伝いをしています。

そんなある日、父からこのようなことを尋ねられました。

「教室では、子供達に『練習では力いっぱい突いたり蹴ったりするが、練習が終わり、教室から一歩でも外に出れば、手を上げてはいけない』と教えている。実際、裁判では空手を習っていると不利になると聞いた。ただ、実際のところはどうなのか。」

確かに、「空手を喧嘩で使っちゃいけない」とはよく言われますが、武道や格闘技を習っている人間が、いきなり一方的に攻撃されて自分の身を守れないというのはどこかお粗末さを感じてしまいます。

自分の身や自分の家族等の大切な人たちを守るためであれば、少なくとも法律上は違法とはいえないですし、不利にならないように思えます。

実際、刑法には次のような規定があります。

刑法36条(正当防衛)
1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

ご存知の方も多い「正当防衛」というものです。

急に相手から暴力を振るわれた場合は、反撃して怪我等を負わせても犯罪にならないという規定です。

このような規定があるということは、法律というのは、案外、空手をはじめとした武道や格闘技に寛容にみえます。

実際、素人では、攻撃してくる相手に対して、身を守ることは非常に難しく、そのような技術を持った人たちのためにあるような規定のように感じます。

しかしながら、先ほどの条文をよく読むと、「『やむを得ずにした』行為は、罰しない」とあります。

これはちょっと厄介です。空手をしている人間であれば、攻撃することなく、防御で相手の攻撃をかわすことで身を守ることも可能です。

そのような人たちの行為は果たして「やむを得ず」にしたといえるのでしょうか。

実際の事例

この点について、次のような裁判例があります。俗に「勘違い騎士道事件」と呼ばれるものです。

この事件は、正当防衛ではありませんが、正当防衛によく似た誤想防衛(急に暴力を振るわれたわけではないものの、そのように本当に思い込んで「やむを得ず」攻撃した場合も罪にならないとされます。)というものが問題となった事件ですが、内容としては加害者の行為が先ほどの「やむを得ず」にあたるか否かを判断したものです。

事件としては、空手道三段を有していた在日の外国人(イギリス人)が、酔っぱらっていた女性とこれをなだめていた男性とが揉み合ううち女性が尻もちをついたのを目撃して、女性が男性から暴行を受けているものと誤解し、女性を助けるべく両者の間に割って入ったところ、男性が防御のため両こぶしを胸の前辺りに上げたのを自分に殴りかかってくるものと思い込み、自身と女性を防御しようと考え、とっさに空手技の回し蹴りを相手の男性の顔面付近に当て、その男性を路上に転倒させて死亡させたことで傷害致死罪に問われたものです。

この事件において、第一審の千葉地方裁判所は、男性を死亡させた外国人の行為について「やむを得ず」にした行為と認め、無罪としたものの、第二審の東京高等裁判所は、「やむを得ず」にしたものとはいえないと判断し、執行猶予付きの有罪判決を下し、最高裁判所もその判断を認めました。

判断を分けたのは、加害者の外国人が空手道三段の実力を持っていたことに加え、放った空手の技の危険性をどう評価するかでした。

第一審の千葉地方裁判所は、他の反撃方法(「急所蹴り」や「足払い」)はかえって頭部等強打の危険性が高いことに加え、回し蹴りは、虎趾の部分(足の親指爪先裏付け根の堅い部分)を使うものと、足の甲の部分を使うものとの二つの方法があるが、本件回し蹴りはそれほど強度な打撃を与えない後者の方法によっていること等を理由に「やむを得ず」にしたと判断しました。

それに対し、第二審の東京高等裁判所は、回し蹴りは一撃必殺ともいわれる空手の攻撃技の一つであり、他の技である「急所蹴り」や「足払い」に比べて危険性が低いとはいえない上、足の甲で蹴った方が虎趾よりも威力が劣るとは必ずしも言い難いこと等を理由に「やむを得ず」にしたとはいえないと判断しました。

我々の業界で俗に“調査官解説”と呼ばれる最高裁判所の判決についての権威ある解説でも、この事件について、「空手三段の段位も取得していた」加害者は被害者との体格差を考慮すれば「手を払いのける程度の防御、反撃を含め、他に取るべき方法はあった」のであり、加害者の行為は「棒のような兇器で殴打したのと攻撃の程度においてさして変わりがない。」と厳しい指摘がされています。

うーん。分かってはいたことですが、結論としては、空手を習っているということが、場合によっては、このように裁判(法律)では不利になることは避けられないようです。

某ヒーロー映画でも語られたとおり「大いなる力には大いなる責任が伴う」ということでしょう。

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